かぶれについての誤解2007年03月28日 11時11分11秒

最近、漆によるかぶれについてかなり誤解がある様なので
カテゴリーを作り、改めて記述してみたいと思う。

一般の方には”漆=かぶれる。”という認識がある。
この認識はほぼ正しい。
しかし、これを”漆器=かぶれる。”と認識している方がいるようで、
この認識は基本的に間違っている。

上述の”漆=かぶれる。”も”ほぼ”と書いているように
正確には正しくなくて、

  ”乾いていない漆=かぶれる。”

が正確で正しい表現となる。
逆を言うと

  ”乾いた漆=かぶれない。”

という事だ。

普通は、
  ”漆器は漆が乾いてから販売されるのでかぶれる事はまずない。”
  ”漆は乾いていない時の名称として一般的だから漆=かぶれる。と言える。”
という事になる。

ただ、漆によるかぶれは(統計学的にみて)個人差があるので詳細は
別項を参照されたい。全くかぶれない人が統計学上1割程度いるので驚きだ。

”漆かぶれ”について(治療)2005年11月08日 11時11分11秒

これは...今とところ決定的な治療法は無いようだ。
(皆さんのご期待に沿えず済みません。)
巷間では沢蟹、栗、桔梗、温泉(岩手・海上の湯)だとか言われてはいるのだが、
自分自身としては未確認なので治療法としてOKだとは言えない。
また、実際効果があったとしても個人の体質差もあるので
”これならば”誰にでも効くとは言えないのではないかと思う。
とにかく掻かずに我慢するしか無い。
予防に勝る対策なしという事か。

ただ、痒みに効くと言われる薬の中に漆工に使われる
dl-カンフル(樟脳、片脳油などに含まれるもの)、テレピン油(油類)や
酸化チタン(白の顔料)が含まれるものがある
(特にdl-カンフルは必ず入っている感じ)のは面白い。
また、それらのものが含まれる薬の方が痒みに効くと思ってしまうのは職業病か。

”漆かぶれ”について(予防)2005年11月02日 11時11分11秒

漆かぶれの最大の予防法は漆を皮膚に付けないことに限る。
とにかくこれが一番重要。

長袖、長ズボン、靴下は必須。手にはラテックス手袋と腕には腕カバー。
(腕カバーはラテックス手袋と長袖をつなぐ形で使う。)
顔にはコールドクリーム。ここまでやればまず間違いない。
(と言いたいところだが、それらを脱ぐ時が危ないので要注意。)

漆を付けないという意味で長袖、長ズボン、手袋、腕カバーは判るが、
コールドクリームは?
これはクリームの膜が漆を皮膚に直接付着させない効果と共に、
漆が油で乾固しにくくなる性質などを利用したもの。 *1
(サラダ油を顔に付ける人もいるくらいだ。)
従って、コールドクリームでも水性のものは
漆を皮膚に直接付着させない効果はあると思うが
油で乾固しにくくする効果は期待できないと思われるので要注意。
ここまでが予防。

その上で”ここまでやっても皮膚に付く可能性があるのが漆の怖いところ。”
という意識で初めのうちは漆に接してもらう事が非常に大事だと思う。
そうすればそのうち免疫(?)ができて多少漆がついても気にならなくなる
体質になっている可能性が高い。

なお、上述の対策をしたにも関わらず、漆が皮膚に付いてしまったら
食用油(不揮発性不乾性油)などで漆を丹念に拭き取り、
石鹸でその油分を洗い流す。(これを数回繰り返すと良い。)
その上で漆の付いた皮膚のところにコールドクリームなどを塗っておく。
これが症状緩和処置になる。

ただ、上述の内容はあくまで予防と症状緩和処置なので、
これさえしていれば”必ず漆かぶれが発症しない”という事にはならない点や
体質や体調によっては効果が無い場合もある事を予めご理解下さい。


*1 漆かぶれは漆が乾固する際に皮膚のたんぱく質と結合し、
  皮膚炎となることで発症する(らしい。)。
  従って保湿効果のあるコールドクリームで(皮膚の表面に膜を作り)
  皮膚に接触させない。乾固を遅らす。と共に
  コールドクリームの成分が漆分を薄めて影響を低減するようにする。

”漆かぶれ”について(発症率)2005年10月27日 11時11分11秒

上はかなり大まかな漆かぶれになる確率とその後の緩和傾向のグラフであるが、
統計的な理解としては上表の様な理解で良い。

”漆かぶれ”については初めて漆芸の世界に入ろうとする人にとって
避けては通れない問題なので触れておかねばならない。

ただ、特に漆かぶれについて気にせずにこの世界に入る人もいる。
その様な人は漆工芸品の美しさに魅入られて”とにかく”
(恐れよりも魅力が勝って)漆工芸をしてみようと考える方が多いようだ。

とは言え、一般的には気になる事なので以下に記述してみたいと思う。
自分が漆屋さんという事もあって(経験上の感覚から)漆かぶれについて
多少軽く記述してしまう点はご容赦願いたい。

で、序論。
1.漆かぶれで死ぬ人はいない。(のっけから軽くてすみません。)
  意識的に全身に漆を被らない限り、漆かぶれで死ぬことは無い。
  やけどでも全身の1/3(?)をやけどすると死に至るのと同様に
  漆が全身の1/3に付着したらヤバイとは思う。
  でも、漆自体がかなり粘性のある液体なので意識的にやらないと
  (どんなに間違っても)漆が全身の1/3に付着することは無いと思う。
  自然は良く出来たもので、漆の木は自身を傷つけた動物をかぶれさせて
  懲らしめる事はするが命までは奪わない。

1.で”漆かぶれ”について怖さが無くなった方はかなり有望。
すぐ漆芸を始めて下さい。(笑)
なお、女性の方はかぶれて痒くて掻いてしまい、傷が皮膚に残るといけないので
以下の発症率に関する認識は正しく持って頂いた上で、
後日記載する予防編もご覧下さい。

ま、1.は基本ということで押さえておいて頂いて、本論。
この件に関して調べた時の詳しいデータは忘却していますが
かぶれの発症率についてはだいたい以下のような感じでした。

2.ほとんどの人が漆かぶれを経験する。
  たしか、確率論的にみて漆に接した人の9割くらいはかぶれる。
  被験者を100人とすると
  かぶれる人 90人
  かぶれない人 10人
  だったかな。1割の人が漆かぶれを認知しなかった事に驚いた記憶がある。
3.漆にかぶれた人の症状は十人十色。
  いわゆるアレルギーなので当然といえば当然だが、
  漆に接した量、質、時期などによっても症状の程度は異なると
  経験的に推測できる。
  量が多く、質がいい(活性の高い)漆に接した場合に症状は重いと考えられ、
  時期的には夏の症状が重い。
  夏は人間の新陳代謝が活発で、汗腺も開いていたりと、
  皮膚に漆が浸透しやすい時期だからだと思われる。
  漆かぶれは怖いけどやってみたい方は冬に始めてみるのもいいかも。
  漆を扱うときは夏でも長袖は必須なので初めて始めるにはちょうど良い。
  ちなみに症状は十人十色で説明が出来ないが、どうしても心配なら
  漆芸を始める前にパッチテストなどをしてくれる皮膚科で予め検査するのも
  安心を得る意味でかなり有効な方法だと思われる。
4.免疫
  医学的な免疫ができるかどうかは不明だが、2.にあげた漆にかぶれる人の
  うち、80人はその後の漆への接触で発生するかぶれの症状の程度は
  低減してくると答えている。(私もその一人。)
  つまり、漆芸を続ける中で漆かぶれが気にならなくなる人は
  程度の差こそあれ10人中9人(かぶれない人を含む)いると考えられる。
5.注意
  ・漆は天然塗料そのものであるからその時々で状態も違うし、
   人間も体調などが違えば(疲れている時に風邪にかかり易いのと同じく)
   漆かぶれの症状の出方も違う。
   したがって、どんなに慣れても細心の注意は怠らない事が重要。
  ・上述してきた事は、漆が液体の状態である時の話で
   乾固した状態のもの(漆器など)に接した場合は漆かぶれは発生しない。
   但し、漆かぶれに敏感な人は塗りたての漆器でもかぶれる場合がある。
   それは漆の乾固が表面から進行する為で、表面上は乾固していても
   内側は乾固していない漆器に漆かぶれに敏感な人が接した場合である。